ペインクリニック
当院におけるペインクリニック
人はその誕生とともに、頭痛や腹痛、腰痛や膝痛、あるいは歯痛など様々な痛みに悩まされてきました。痛みに苦しんだ経験のない人は皆無といっても過言ではないでしょう。それほど疼痛は人間にとって身近な問題であり、ときに健全な日常生活を脅かすこともあるほど深刻な問題でもあります。


※写真は疼痛に対するイメージなので当院では歯の治療は行っておりません。
※写真は疼痛に対するイメージなので当院では歯の治療は行っておりません。
整形外科は痛みを伴う疾患を多く扱うため、除痛治療が強く求められる診療科の一つです。当院におけるペインクリニックでは、主に整形外科疾患から生じる痛みを対象に、神経ブロック療法を専門に行っております。ここでは、外来で行える神経ブロック療法を中心に、その用法について解説します。
神経ブロックとは?
人は「神経の作用」によって痛みを感じます。神経は身体全体に張り巡らされており、末梢神経から中枢神経へと「痛みの経路」を備えています。神経ブロックは、この疼痛(とうつう)伝導経路を、主に麻酔薬の注入により局所的に遮断するものです。使用する薬剤は、局所麻酔剤の他、副腎皮質ホルモン(ステロイド剤)などを混合し、その濃度や分量も患者さん一人一人の状態によって選択していきます。
神経ブロックの作用
神経ブロックのもつ最も大切な作用は「痛みが作り出す悪循環」を遮断することにあります。
●「痛みが作り出す悪循環」とは?
生体においては、身体のどこかに何らかの痛み刺激が加わると交感神経中枢が興奮し、その結果末梢血管の収縮が起こります。すると局所の血流が減少し、局所は低酸素状態となりそこに発痛物質が産生されます。
さらに脊髄反射により運動神経が興奮し筋緊張が増大することによっても局所は低酸素状態になり発痛物質が産生されます。
その発痛物質がさらに別の痛み刺激となり交感神経中枢を刺激し、悪循環を繰り返しながら痛みが増悪して行くのです。
原因となる疼痛刺激を取り除いても痛みが継続するのはこの痛みの悪循環によるものなのです。(左図参照)

さらに脊髄反射により運動神経が興奮し筋緊張が増大することによっても局所は低酸素状態になり発痛物質が産生されます。
その発痛物質がさらに別の痛み刺激となり交感神経中枢を刺激し、悪循環を繰り返しながら痛みが増悪して行くのです。
原因となる疼痛刺激を取り除いても痛みが継続するのはこの痛みの悪循環によるものなのです。(左図参照)
●痛みが及ぼす全身への影響
また痛み刺激は大脳皮質にまで影響を及ぼし、精神的な不安や気分不快を招きます。それがさらに視床下部にも影響を与えホルモンバランスの崩れや自律神経失調による様々な症状を引き起こし、生体全体は異常状態に陥ってしまいます。
神経ブロックはこの痛みが作り出す悪循環を遮断することにより疼痛を一時的または永続的に取り除き、生体の異常状態を改善する効果を期待したものです。
神経ブロックの諸注意
神経ブロックには特殊な麻酔薬を用いるため、皮下注射によるショック作用や薬剤アレルギーに対しての注意が必要です。以前に何らかの薬剤や麻酔の注射等でショック症状やアレルギー反応が出た既往のある患者様は、必ずその旨をお申し出下さい。
また、神経ブロックは血管組織や神経を注射針で傷つけないように正確な施行部位の把握が大切となるため、手技に熟達した専門医による治療をお受けになることをお勧めします。下記にも述べますが、神経根ブロックなどはX 線透視下での精度の高い技術が必要となる治療法の1つです。
当院で行っている神経ブロックとその適応
1. 診察室で行うもの
診察室で行うもの | ||
---|---|---|
後頭神経ブロック | → | 筋緊張性頭痛 |
肩甲上神経ブロック | → | 頚椎椎間板ヘルニア、頚椎症性神経根症、肩関節周囲炎など |
正中神経ブロック | → | 手根管症候群 |
傍脊椎神経ブロック | → | 腰椎椎間板ヘルニアなどの脊椎疾患では反射性(あるいは防御性) に傍脊柱筋の筋緊張が亢進します。 そのような反射性筋緊張に対して行います。 |
肋間神経ブロック | → | 肋間神経痛(肋間神経に沿った胸の痛み) |
外側大腿皮神経ブロック | → | 知覚異常性大腿痛 (外側大腿皮神経が鼡径靭帯で圧迫を受け大腿部に疼痛や知覚鈍麻の生じる疾患) |
坐骨神経ブロック | → | 坐骨神経痛(臀部から下肢にかけての疼痛・しびれ) |
梨状筋ブロック | → | 梨状筋症候群による坐骨神経痛 |
仙骨部硬膜外ブロック | → | 腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、腰椎すべり症などによる腰下肢痛 |
トリガーポイントブロック | → | 筋・筋膜性疼痛で、筋緊張部や筋膜に圧迫などの刺激により痛みが誘発される部位を トリガーポイントといい、そこにブロック注射を打ちます。 |
2. レントゲン室で透視下に行うもの
以下の神経ブロックはより安全性と確実性を高めるためにX線透視下に行うことにより治療効果を上げることができます。
レントゲン室で透視下に行うもの | ||
---|---|---|
星状神経節ブロック | → | 頚椎椎間板ヘルニア、頚椎症性神経根症、帯状疱疹などによる上肢の疼痛、片頭痛、 群発頭痛などの頭頚部の疼痛、上肢の血行障害による冷感・しびれなど |
神経根ブロック | → | 腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、腰椎すべり症などによる腰下肢痛 |
椎間関節ブロック | → | ぎっくり腰、変形性脊椎症、椎間関節嚢腫などによる腰 |
腰部硬膜外ブロック | → | 腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、腰椎すべり症などによる腰下肢痛 |
神経ブロックの実際
ここでは、当院で実際に行われている「神経根ブロック」の手技について説明します。「神経根ブロック」は脊髄本幹から左右に枝分かれした神経の枝にブロック注射を行うものです。
●神経根ブロック
神経根ブロックはX線透視を用いて行うのですが、神経はX線では写し出されませんので実際にはX線で確認できる脊椎の骨格像をもとに神経根の通っている部位へ注射針を刺入して神経根を探します。
神経根ブロックはX線透視を用いて行うのですが、神経はX線では写し出されませんので実際にはX線で確認できる脊椎の骨格像をもとに神経根の通っている部位へ注射針を刺入して神経根を探します。
これには神経根がどこをどのように走っているかの解剖学的な位置関係を十分に理解している必要があり、多くの治療経験に基づくテクニックと勘が要求されます。

●神経根造影
神経根がうまく見つかれば、患者さんには一瞬下肢へとひびく電撃痛が走りますので、患者さんの様子を慎重に伺いながら行って行きます。

神経根がうまく見つかれば、患者さんには一瞬下肢へとひびく電撃痛が走りますので、患者さんの様子を慎重に伺いながら行って行きます。
神経根に当たった後には確認のため造影剤を注入し、神経根を造影させます。
神経根の造影がしっかりと確認できたらその後に血液の逆流が無いことを十分に確認しながら麻酔剤やステロイド剤をゆっくり注入して行きます。
痛みの原因と診断した神経根に正確にブロック注射が行われれば、患者さんの痛みは数分のうちに和らいでくれます。同時に麻酔が効いているため、下肢に力が入らなくなるのでしばらくベッドで安静にしてもらい、下肢の筋力が回復するのを待ちます。
来院時は歩けないくらいひどい激痛だった患者様がブロック注射後にはかなり痛みが和らいで自力で歩いて帰られるようになることもしばしばあります。
以上、当院で行っている神経ブロックについて述べて参りましたが、神経ブロックの適応は事前にしっかりとした診察を行い、明確な診断根拠をもって決定する必要があります。
痛みには色々な原因があり、すべての痛みに対して神経ブロックが有効とは言えませんが、患者様の抱えておられる「痛み」について是非一度御相談下さい。